●『酒乱』の連詩 第二回(二〇〇八年九月開始)
一
焼けた骨
のようなガードレールで囲まれた空に
また桜の咲く季節を待っている――みたいな
それは偶然への強い拒否なのか
焼け止まらない中に立ち止まる
二
つぎつぎとたてものはくずれた
直立して見あげていることにはもうたえられない
鳥が勝手にそだっていく
死んだ男がずっと下にみえた
どうして時間がたつとわたしは高くなるのか
三
高くなったのではなく足がもつれただけで
お前はまだそんなことも分からないのか
鳴くのは目すら見えない地虫ばかりだから
せめて舌先で零れ落ちる水滴を包み込め
じきに風が吹きぬけ光もあたたかさを増す
四
ふゆん ふゆん れむ睡眠
いっさいはさかさまと
歩きながらひとりごちる
あくら通りをまがれば
「ノヴァ」の扉
五
ドアを叩く音が途絶えてどれくらいたつのだろうか。
朦朧とした瞑りのなかで、冬が香ばしく、窓枠の痩せたひかりを暖めている。
若い手を握ったきのうは、土のなかに沈んでいる。
数年を跨いだあとに、立ち上がった夕暮れ。
あなたが、そっと、空のうえから、ドアを叩いた。
六
玉手箱のようにふんわりひらいて
残り湯のようにじっとり閉じて
そんな風にふさいでしまえばいい
まろまろと押し返してくる
乳臭い体温
七
マシュマロ理事長に決まったことは
みんな知っていると思っていた
乳房にスッと射込む冷たさを
偶然を待つ意志だけが
温もりに裏返してゆく
八
さらにきりかえせば温もりはとおい場所につながり
雲間からおりるひかりの帯にまとまってゆき
あざやかな沈黙だけがいとおしくて
ぬるぬるの
今日を日記に書いてみたりする
九
にぎる用具の木の匂い
やわく丸かった幼少時代はなぜか
暗く、狭くなっていた
記憶に無理強いをすると
古い黒鉛に削る手も染み込む
十
切っ先の行く末に花開いた
わななく生娘に十字架が匂う
むずがる横顔、崩れて、仰げば
天道が揺らいで、準備万端
爪は羽となり、水は罠となり
©shuran