●『酒乱』の連詩 第二回(二〇〇八年九月開始)




焼けた骨

のようなガードレールで囲まれた空に

また桜の咲く季節を待っている――みたいな

それは偶然への強い拒否なのか

焼け止まらない中に立ち止まる



つぎつぎとたてものはくずれた

直立して見あげていることにはもうたえられない

鳥が勝手にそだっていく

死んだ男がずっと下にみえた

どうして時間がたつとわたしは高くなるのか



高くなったのではなく足がもつれただけで

お前はまだそんなことも分からないのか

鳴くのは目すら見えない地虫ばかりだから

せめて舌先で零れ落ちる水滴を包み込め

じきに風が吹きぬけ光もあたたかさを増す



ふゆん ふゆん れむ睡眠

いっさいはさかさまと

歩きながらひとりごちる

あくら通りをまがれば

「ノヴァ」の扉



ドアを叩く音が途絶えてどれくらいたつのだろうか。

朦朧とした瞑りのなかで、冬が香ばしく、窓枠の痩せたひかりを暖めている。

若い手を握ったきのうは、土のなかに沈んでいる。

数年を跨いだあとに、立ち上がった夕暮れ。

あなたが、そっと、空のうえから、ドアを叩いた。



玉手箱のようにふんわりひらいて

残り湯のようにじっとり閉じて

そんな風にふさいでしまえばいい

まろまろと押し返してくる

乳臭い体温



マシュマロ理事長に決まったことは

みんな知っていると思っていた

乳房にスッと射込む冷たさを

偶然を待つ意志だけが

温もりに裏返してゆく



さらにきりかえせば温もりはとおい場所につながり

雲間からおりるひかりの帯にまとまってゆき

あざやかな沈黙だけがいとおしくて

ぬるぬるの

今日を日記に書いてみたりする



にぎる用具の木の匂い

やわく丸かった幼少時代はなぜか

暗く、狭くなっていた

記憶に無理強いをすると

古い黒鉛に削る手も染み込む



切っ先の行く末に花開いた

わななく生娘に十字架が匂う

むずがる横顔、崩れて、仰げば

天道が揺らいで、準備万端

爪は羽となり、水は罠となり


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