●『酒乱』のリレー詩
第二回 第六走者
山脈の青さ
〔丘のように見えた人の背中は、ブレーキの音にかすれ
駅のホームから消えていった
どこにいくのか目で追っていると
あのビルの住人なのかペントハウスに明かりがともる
バスタブに水をはって、一日の締めくくりにしようと
カランに力をこめる〕
〔テラスには、知らない虫の標本が飾られていて
あ、これは、と目でふれていく
ゆずりうける流れのような
つづく息のあとの水たまり〕
〔虫の友だちがたくさんいるわたしは
幸せである
幸せではあるけれども、マンションに住んでいて
五階よりも上には、あまりゴキブリがやってこない
頭のいい蚊は、エレベーターで来ることもあるが
それでも音楽性のある蚊が、耳にちかづくことは
少ない〕
〔ええ、とても。まるで偉大なピアニストみたいで〕
たおれた自転車/砂利のような人たち
声のないところで、音をさしむかいにするあなたの
手のような……
©shuran