●『酒乱』のリレー詩
第二回 第一走者
原潮
こゑは、峠道の先まで続いているのではあるまいか?
否、私が、そう念じてしまったのだ、滑るように追う
、と、あたりは唐突に光を無くし、私はただ、こゑを
のみ、辿って、 降りて行くのだった、こゑを吸う、
肺を満たす、それは、私のこゑを奪ったらしかった、が
、私は恐怖してはいなかった、呼べども呼べども、音が無い
、が、聴覚は生きているので、ウタは、聴こえたのだ、
それは、言葉ではなく、潮騒、で、あったろう、とおく、
大陸棚を走ってくる、懐かしいような、だが、追い立てる
、ウタ、 沈んで行くと、私は何故か、もう、呼吸をしてはいなかった
、やがて、体温が失せ、皮下に、蟲が這い回ると、骨が溶け、
、歯が溶け、穴と云う穴から、時間が、蒸発するように、 言葉を
、名を、失った、揺られている潮騒のウタにしがみついて、私は、
何処へ、或いは、何処から帰るのだろう? 蟲が這う、私はもう
、空腹ではなかった、大陸棚は、満ち、潮は凪いでいる
©shuran