●『酒乱』のリレー詩
第一回(第二走者 鈴木啓之 二〇〇八年十月七日)
水平線狩り
不意にしゃがみこんで
あなたは水平線を束ね始める。
水平線を上手く束ねるのにはコツがあるのよ。
そう言ってほほ笑み小首を傾げる仕草は
あなたには似合わない。
水平線狩りの季節は夏に限るわ。
夏の水平線は脂の乗りもいいから最高級なのよ。
駅前の土産物屋に貼ってあった広告をそのまま口にする。
水平線キャンペーンガール。
時給九百五十円。
急募。
ほつれたサンダルの結び目から
海が始まるとでも言うように
実に軽い足取りで
波打ち際に走り去るあなたの後姿は
最早暮れ方の水平線の一部にすぎない。
波に洗われて
球形に飽和した世界が
早くも破れかけているというのに
あなたは水平線の束に火を放つために
もう何本目だかの燐寸を擦っていた。
©shuran